はるげと|果てなき流浪はゲームと共に

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長い人生、ゲームが無ければ生きられない。フリーゲームの感想メイン

【フリーゲーム感想】機械仕掛けの鴉 ~前奏曲~

「機械仕掛けの鴉」のタイトル画面


・タイトル:機械仕掛けの鴉 ~前奏曲

・作者:岩崎幹 様

・ジャンル:推理アドベンチャーゲーム

・プレイ時間:2時間~

 

・お勧め度:★★★☆☆  3

 

www.vector.co.jp

 (Vector様の説明分引用)

岩崎創は、幼馴染の遠野真理恵に連れられ、とあるマンションを訪れる……。
何気ない平和な日常どおり、何事もなく過ぎていくかと思えば……その想いを裏切るようにすぐに発生する事件。
おびただしく濁る紅い液体、荒らされた事件現場、残されていた謎の絵画、そして、ダイイングメッセージ。

前座作品として体験版のような位置づけになっていますが、短編形式で完結した物語です

2005年に公開された本格推理ADV。システム的に古さを感じさせるところはあるが直球にミステリしている希少価値のある作品。今回はこのゲームをレビューしてみる。

※本作品は本編の前座作品という位置づけだが、残念ながら本編は公開されずに開発終了してしまったようだ。

幼馴染の部屋で巻き込まれる殺人事件

主人公は岩崎創という名の青年。この岩崎が幼馴染の遠野真理恵に連れられて、彼女の部屋で彼女が所属する推理研究会のメンバを待つ所からメインストーリィは始まる。

部屋の中で悲鳴を聞きつけた真理恵、外に出ると恐怖に震えへたり込んでしまっている隣人を目撃する。青ざめた隣人が2人に部屋の中で人が死んでいると告げ…といった形で日常から一転して非日常の世界へと転換する。

 主人公である岩崎の性格は捻くれた理屈屋といった感じ。作者あとがきによると、森博嗣氏のS&Mシリーズの登場人物である犀川創平をモデルにしているとの事。人によっては多少言動が鼻につくこともあるかもしれない。

岩崎と真理恵の会話シーン

人の死に対しての岩崎の感想。余りにも拗らせ過ぎている感はある。

対する相棒の遠野真理恵は岩崎とは正反対の行動派。麻耶雄嵩氏の「夏と冬の奏鳴曲」の登場人物、舞奈桐璃をモデルにしているとの事だが残念ながら筆者はその本を存じ上げない。凸凹コンビでバランスをとっている形だ

予定調和的な事件解決

本編は岩崎が主導して推理を進めていくことになるのだが、事件の推理自体はそこまで難しくはない。作中でこれ見よがしにヒントも与えらえるため、メイントリックの解明はそれほど苦労しないだろう。さらには「TIPS」には今までの捜査で得られた情報が自動で記録されるため、非常に推理をしやすい親切設計になっている。

但しダイイングメッセージだけははかなり凝った謎解きになるので正解を導くのに苦労するかもしれない。誤答で即ゲームオーバという作りにはなっていないので、どうしても分からなければ選択肢の総当たりでも先に進むことはできる。

TIPSを選択した際の画面

事件の概要はTIPSに登録されるため、好きなタイミングで見返す事が可能。

主人公の岩崎による犯人指摘(プレイヤ操作)で事件を解決した後、岩崎は多少の違和感を感じつつ帰路につく。これで物語は終了かと思いきや、翌朝彼はある衝撃の事実を知る事になる

言うなればここからが本番スタート。作者からの挑戦状が提示され、プレイヤはこの物語の隠された真実に挑む事になる

所感だが、ゲームを一度クリアした頃にはおぼろげながらこの物語の真相を感づいている事かと思う。ただしどうすればその真実を暴くルートに進めるのか迷うかもしれない。明言は避けるが、あるシーンでの主人公の行動選択が鍵。通常とは様相が異なる場面で通常とは異なる行動をとれば、おのずと扉は開かれるだろう(抽象的すぎるだろうか…)

張り巡らされた伏線と悲しい真実

真相ルートではこの物語の背景に流れる真実が明かされる。ゲームを進める中で感じていた違和感や疑問点が見る見るうちに解消されていくことだろう。真相を知った上でこの物語に対しどのような感想を抱くかはプレイヤ次第。

注意点としては真実を暴くルートに入ったらプレイヤが推理する事はなくなり、主人公である岩崎創の推理をプレイヤが見守るだけになる。真相が明かされる前に自分で全てを推理しておきたいと考えるプレイヤはこのルートに入る前に自分の考えをまとめておくのがお勧めだ。

(以下ネタバレ感想のため反転)

事件発生前の普段とは異なる態度、さらには推理研究会のメンバが真理恵の部屋に来なかった事をほとんど気にかけていない彼女の言動から、事件関係者=推理研究会メンバ、との発想はすぐにつながる。ノーマルエンドで明かされる、事件翌日の新聞記事で蓑太一の殺人が言及されていない事からも、この殺人事件が彼らによる演技だということは気づけるはず。笹川美袋の自殺の背景まで推測できるかといわれると困難だが、トリックの本質に到達するのはそこまで難しくない。

とても面白いアイデアのため、真相に辿り着けなくても解決編に入れてしまうのが少し残念。全てが擬似だと分かっている状態でなければ選ばないような選択肢を用意しておいて、それをトリガにして真相ルートに到達できるようにしても面白かったかもしれない。

総評

一見するとシンプルな推理ADVだが、この物語の真相を理解する頃には序盤から仕込まれていた伏線の数々に驚くことだろう。緻密な設計で作り上げられた作品であるが故に、真相にプレイヤが辿り着けなくても回答が与えられる仕組みになっていたのが残念。それを抜きにしても物語としての質は高いためミステリ好きなら遊んでみても損はない。「隠された真実」といったワードがお好きな方には特にお勧め。