【フリーゲーム感想】機械仕掛けの鴉 ~前奏曲~
・作者:岩崎幹 様
・ジャンル:推理アドベンチャーゲーム
・プレイ時間:2時間~
・お勧め度:★★★☆☆ 3
(Vector様の説明分引用)
岩崎創は、幼馴染の遠野真理恵に連れられ、とあるマンションを訪れる……。
何気ない平和な日常どおり、何事もなく過ぎていくかと思えば……その想いを裏切るようにすぐに発生する事件。
おびただしく濁る紅い液体、荒らされた事件現場、残されていた謎の絵画、そして、ダイイングメッセージ。
前座作品として体験版のような位置づけになっていますが、短編形式で完結した物語です
2005年に公開された本格推理ADV。システム的に古さを感じさせるところはあるが直球にミステリしている希少価値のある作品。今回はこのゲームをレビューしてみる。
※本作品は本編の前座作品という位置づけだが、残念ながら本編は公開されずに開発終了してしまったようだ。
幼馴染の部屋で巻き込まれる殺人事件
主人公は岩崎創という名の青年。この岩崎が幼馴染の遠野真理恵に連れられて、彼女の部屋で彼女が所属する推理研究会のメンバを待つ所からメインストーリィは始まる。
部屋の中で悲鳴を聞きつけた真理恵、外に出ると恐怖に震えへたり込んでしまっている隣人を目撃する。青ざめた隣人が2人に部屋の中で人が死んでいると告げ…といった形で日常から一転して非日常の世界へと転換する。
主人公である岩崎の性格は捻くれた理屈屋といった感じ。作者あとがきによると、森博嗣氏のS&Mシリーズの登場人物である犀川創平をモデルにしているとの事。人によっては多少言動が鼻につくこともあるかもしれない。
対する相棒の遠野真理恵は岩崎とは正反対の行動派。麻耶雄嵩氏の「夏と冬の奏鳴曲」の登場人物、舞奈桐璃をモデルにしているとの事だが残念ながら筆者はその本を存じ上げない。凸凹コンビでバランスをとっている形だ。
予定調和的な事件解決
本編は岩崎が主導して推理を進めていくことになるのだが、事件の推理自体はそこまで難しくはない。作中でこれ見よがしにヒントも与えらえるため、メイントリックの解明はそれほど苦労しないだろう。さらには「TIPS」には今までの捜査で得られた情報が自動で記録されるため、非常に推理をしやすい親切設計になっている。
但しダイイングメッセージだけははかなり凝った謎解きになるので正解を導くのに苦労するかもしれない。誤答で即ゲームオーバという作りにはなっていないので、どうしても分からなければ選択肢の総当たりでも先に進むことはできる。
主人公の岩崎による犯人指摘(プレイヤ操作)で事件を解決した後、岩崎は多少の違和感を感じつつ帰路につく。これで物語は終了かと思いきや、翌朝彼はある衝撃の事実を知る事になる。
言うなればここからが本番スタート。作者からの挑戦状が提示され、プレイヤはこの物語の隠された真実に挑む事になる。
所感だが、ゲームを一度クリアした頃にはおぼろげながらこの物語の真相を感づいている事かと思う。ただしどうすればその真実を暴くルートに進めるのか迷うかもしれない。明言は避けるが、あるシーンでの主人公の行動選択が鍵。通常とは様相が異なる場面で通常とは異なる行動をとれば、おのずと扉は開かれるだろう(抽象的すぎるだろうか…)
張り巡らされた伏線と悲しい真実
真相ルートではこの物語の背景に流れる真実が明かされる。ゲームを進める中で感じていた違和感や疑問点が見る見るうちに解消されていくことだろう。真相を知った上でこの物語に対しどのような感想を抱くかはプレイヤ次第。
注意点としては真実を暴くルートに入ったらプレイヤが推理する事はなくなり、主人公である岩崎創の推理をプレイヤが見守るだけになる。真相が明かされる前に自分で全てを推理しておきたいと考えるプレイヤはこのルートに入る前に自分の考えをまとめておくのがお勧めだ。
(以下ネタバレ感想のため反転)
事件発生前の普段とは異なる態度、さらには推理研究会のメンバが真理恵の部屋に来なかった事をほとんど気にかけていない彼女の言動から、事件関係者=推理研究会メンバ、との発想はすぐにつながる。ノーマルエンドで明かされる、事件翌日の新聞記事で蓑太一の殺人が言及されていない事からも、この殺人事件が彼らによる演技だということは気づけるはず。笹川美袋の自殺の背景まで推測できるかといわれると困難だが、トリックの本質に到達するのはそこまで難しくない。
とても面白いアイデアのため、真相に辿り着けなくても解決編に入れてしまうのが少し残念。全てが擬似だと分かっている状態でなければ選ばないような選択肢を用意しておいて、それをトリガにして真相ルートに到達できるようにしても面白かったかもしれない。
総評
一見するとシンプルな推理ADVだが、この物語の真相を理解する頃には序盤から仕込まれていた伏線の数々に驚くことだろう。緻密な設計で作り上げられた作品であるが故に、真相にプレイヤが辿り着けなくても回答が与えられる仕組みになっていたのが残念。それを抜きにしても物語としての質は高いためミステリ好きなら遊んでみても損はない。「隠された真実」といったワードがお好きな方には特にお勧め。
【フリーゲーム感想】麻生洋一の事件簿 ~どちらかが彼女を殺した~
・タイトル:麻生洋一の事件簿 ~どちらかが彼女を殺した~
・プレイ時間:30分~
・お勧め度:★★☆☆☆ 2
第11回ふりーむ!ゲームコンテストの「推理ゲーム」部門で銅賞を獲得した本作。
名前から分かるように東野圭吾氏の推理小説「どちらか彼女を殺した」のオマージュ作品となっている。
短編ではあるがプレイヤが推理して犯人を指名する必要がある貴重な形式のゲーム。
今回は数少ない「本格」ともいえるこのミステリADVゲームのレビューをしてみよう。
冗長部分を排したシンプルな推理ゲーム
無駄なストーリィは一切なし
ゲームは殺人事件が起きた現場に主人公である「麻生洋一」が到着した場面から始まる。プロローグもなく簡単な状況説明の後、すぐに捜査が開始される。
登場人物のバックグラウンドも特には語られないため各キャラへの感情移入も難しく、全体的にあっさりとした作り。このゲームに重厚なストーリィを求めていると肩透かしにあうだろう。
必要最低限の捜査と提示される情報
捜査自体も非常にシンプル。基本は各現場で登場人物と会話をすることで推理に必要な情報を収集していくだけになる。
主人公も行動自体は自由に選択できるが、一つの現場で捜査が終了したら初めて次の現場に移動できる、といった形でフラグ管理されているため、言うなれば脚本で定められた順番通りに現場を回っていくだけ。考えて捜査をする必要は全くない。
今までの捜査で得られた情報は「捜査手帳」に記録され、必要な情報はこれだけですよとプレイヤに提示してくれる親切設計。情報量も多くはないため情報整理に苦労することはないだろう。
プレイヤが推理を構築し犯人を指摘する
必要な捜査がすべて終わった段階で自動的に犯人指摘モードに移る。
タイトルが示す通り容疑者は2人で、そのどちらが犯人かを当てる事になるのだが、登場人物が推理をしてくれる訳ではないので、プレイヤ自身が得られた事実から推理を構築していかなくてはならない。
とはいえ、何を考えるべきかといった論点が明確になっているため、「捜査手帳」に書かれている情報を素直に読み取れば、正答に辿り着くまでにそこまで時間はかからないはずだ。推理自体の難易度は易しめといってよいだろう。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、鍵になるのは「場所」と「凶器」。現場の状況を考えると…だよね、ということで犯人可能な人物を特定できる。指摘後もあれこれ言い逃れをしてくる真犯人に対し「証拠品」を突き付けて論破するのは「逆転裁判」を彷彿とさせて面白かった。
ちなみに2人の容疑者以外の登場人物にも「犯人はあなたです」と指摘できるため、それぞれの反応をみるのも面白い。
総評
無駄な部分を削ぎ落したシンプルな推理ADV。プレイヤは推理に集中できる反面、ゲーム終了後に心に残るものも少ないか。ボリュームも少ないため、どうしても物足りなさは残ってしまうが、とにかく頭を使って推理をさせろ、とお望みの方々には遊んでみてもらう価値はある作品だ。
【フリーゲーム感想】DAY:0
・タイトル:DAY:0
・作者:PANOGAMES 様
・ジャンル:タワーディフェンス
・プレイ時間:40分~(1周)
・お勧め度:★★★★☆ 4
第12回ウデイコンで堂々の総合1位を勝ち取った本作。
独創的かつ戦略性に富んだゲームシステムと精練されたグラフィック、直観的なUI。多くは語られないが深みのある独特な世界観。まぎれもなくフリーゲームの名作といえるこのゲームを今回はレビューしてみる。
タワーディフェンスゲームの常識を打ち破った快作
タワーディフェンス(以下TD)といえば、一般的には定められたルートを通り向かってくる敵に対し、ルートの外に敵を攻撃する防衛施設を配置することで、敵の侵攻を防ぐのを目的としたゲームだ。
本作はそのTDのコンセプトは踏襲しつつも、タワーを自由自在に動かせるというアイデアを追加することで、独特なゲームシステムへの昇華に成功している。
TDではどの位置にどの防衛施設を配置するかが攻略の鍵となるが、再配置制限を排除した本作では、敵の特徴、配置、進軍ルートを考慮しつつ、適切にキャラを移動させ続ける事で敵の侵攻を防ぐ事が鍵になる。
プレイヤーはゲームを始める前に、使用する5名のユニットとそれぞれに装備させるカード、そしてスペルとブロック3種を選択する事になる。それぞれの用途と気を付けるべきポイントを簡単に見ていこう。
ユニット選択
使用できるユニットは全12名。性能の特徴から大きく「オールラウンダー」「ディフェンダー」「アタッカー」「ヒーラー」「バッファー」の5種に分けられる。各ユニットには固有のスキルも用意されていて、同じ役割に分類されていても使用感は大きく異なる。使用するユニットの組み合わせによって戦略、難易度が大きく変わってくるため、自分にとって使いやすいメンバーを見つける事が重要になる。
とはいっても初めはどのユニットが使いやすいかも分からないため、まずは感覚的な好き嫌いで決めてしまって良いだろう。初心者でも扱いやすいユニットは「フィフティ」「アインス」「ツヴァイ」「ジーヴェ」辺りだろうか。
カード選択
各ユニットにはカードを1枚づつ装備させることができる。ゲーム開始当初は1種しか使用できないが、条件を満たすことで使用できるカードが徐々に開放されていく。その効果は装備したユニットの能力を向上させるものや、各種ボーナスを与えるものなど多種多様だ。ユニットとカードの組み合わせによっては取り得る戦略も変わってくる。
スペル選択
プレイヤはユニット操作以外にもスペルと呼ばれる特殊能力を使用することができる。全6種の中から1種を選ぶことになるが、こちらも効果は千差万別。一度使用すると再度使用するまで一定時間が必要になるため、タイミングの見極めが重要だ。再使用までのウェイトタイムが短く効果も腐りにくい「グレーターヒール」が個人的なおすすめ。
ブロック選択
本ゲームではユニットを配置する足場を自分で作成しなくてはならない。その際に使用されるのがこのブロックだ。ブロックも全8種から3種を選んでプレイすることになる。ブロックにはそれぞれ効果が設定されており、マテリアル(※1)収入を増やす「草原」、ソウル(※2)収入を増やす「海」といったリソース確保用のブロックに加え、敵にダメージを与える「罠」や味方キャラを回復させる「治癒」などの戦略的なブロックも存在する。基本はリソース確保用に「草原」「海」の2種を選択し、残り1枠を自分のプレイスタイルに合わせて選ぶ形が良いだろう。
※1:ブロックの配置に使用するリソース。時間経過や敵の打倒で入手可能。
※2:キャラの召喚やレベルアップに使用するリソース。時間経過や敵の打倒で入手可能。
特筆すべき攻略の自由度の高さと戦略性
編成を終えるといよいよゲーム本編の開始だ。
プレイヤの敗北条件はマップ中央下側に位置するコアを破壊されること。コア位置にユニットを配置しておけばコアへのダメージは(特殊な攻撃を除き)防ぐ事ができる。しかしコア位置にユニットを留まらせるだけでは、敵を逃してしまったり、射程外から一方的に攻撃を受ける事もある。
ユニットの召喚とレベルアップ
そのようなジリ貧状態を解決する打開策はユニットを増やす事だ。編成で使用するユニットを5体選択したが初めから全てのユニットを使用できる訳ではなく、ソウルを消費して順に召喚していくことになる。
ソウルはこのユニットの召喚とレベルアップに使用されるが、新規ユニットの召喚を優先するか、既存ユニットのレベルアップを優先するか選択を迫られる。少ないユニット数ではすべての敵を補足しきれないが、レベルが低いと火力不足。両者のバランスが重要になってくる。
各ユニットには装備品を付与することもできる。敵を倒すと一定確率でドロップされるものだが、序盤でも性能の良い装備品を入手できる可能性はある。運よく高性能な装備品を手に入れる事ができたら、幸運に感謝しつつ有効活用できるように運用しよう。
足場の構築とリソース確保
ユニットの召喚と同時に足場の確保も重要なファクタだ。
ゲーム開始当初は足場はコア回りにしか存在せず、近くの敵にしか対処することができない。そのためプレイヤはマテリアルを消費してブロックを配置し、ユニットを移動させるための足場を確保する必要がある。
また各ブロックはそれぞれ特殊な効果を持っているため、どのブロックを使用するかも重要になる。マテリアルやソウルといったリソースがないと身動きもとれないため、序盤は可能な限り「草原」や「海」といったリソース産出効果があるブロックを優先的にマップに敷き詰めていこう。
徐々に激しくなる敵の攻勢とユニット管理の重要性
敵キャラの攻撃方法もバリエーションに富んでいる。横方向に絶大なダメージを与えくるがそれ以外は攻撃手段を持たない固定砲台のような敵や、一定時間立つと周囲を巻き込んで自爆する敵など、それぞれの特徴に合わせた位置取りと進退判断が必要になる。
ユニットは死亡しても一定期間立てば自動で復活できる仕組みになっている。しかし死亡回数が増えるにつれ、復活にかかる時間が加速度的に増加していく。そのため、敵の攻撃が激化する終盤は仕方がないにしても、序盤では可能な限りキャラを死なせないように注意を払わなくてはならない。
終盤になればなるほど攻撃は激化し、強制全体攻撃や足場の破壊、ダメージ床への塗り替えなど凶悪な攻撃手段をこれでもかというほど叩きつけてくる。ラストステージを無事クリアできるかはそれまでのステージの積み重ねの結果。難易度は高いがクリア後の達成感を是非とも味わってみて欲しい。
まずはゲームに慣れる事から始めよう
プレイ当初は画面上の多大な情報量に只々圧倒されてしまうかもしれない。ただ慣れるにつれて膨大な情報量をリアルタイムに把握しつつ、攻略のために試行錯誤する自分に気づけるはずだ。ゲーム難易度も「EASY」「NORMAL」「HARD」の3種から選択できるため、まずは「EASY」から初めてゲームに慣れる事をお勧めする。(一定条件を満たす事で「HARD」よりも難易度が高い「WORLD」を選択できるようにも)
チュートリアルも充実しているため操作はすぐに理解できるようになるだろう。情報量が多い故の多少の取っつきにくさあるが、そこを乗り越えれば珠玉のゲーム体験はすぐそこだ。
総評
ジャンル上はTDだがTDとは大分異なるゲーム性を持った本作。
編成の自由度も高く色々なユニットを使ってみながら戦略を試行錯誤するのが非常に面白い。クリアできるまで何回もトライしてしまう中毒性は相当なものだ。
TD系統のゲームが好きならば文句なしにお勧めできる一品。
【フリーゲーム感想】星と雨とが交わる飲み屋
・タイトル:星と雨とが交わる飲み屋
・作者:MIS.W 様
・ジャンル:居酒屋セカイ系ノベルゲーム
・プレイ時間:2時間~
・お勧め度:★★★☆☆ 3
居酒屋で行われる会話と崩壊
(Vector様の説明分引用)
とある文芸サークルの、とある飲み会。
なんてことない居酒屋の会話を発端に、
彼らは本性を現し、そして世界は崩壊を始める。
崩壊の契機は何なのか。
崩壊の原因は何なのか。
この世界に根ざしている闇の正体とは。
プレイヤーは各キャラクターの視点で崩壊を目撃し、
何度も世界崩壊を繰り返しつつ真相を探る。
彼らは、その輪廻から脱出することができるのか。
様々な視点から真相を推理する、居酒屋セカイ系ミステリノベル。
2011年に公開された本ゲーム。「居酒屋セカイ系ミステリノベル」とは何ぞやと興味を惹かれるが、システム自体は一般的なノベルゲームそのもの。途中での選択肢もなく、プレイヤは基本的にはただ文書を読み進めていくだけの形になる。
物語の舞台はガード下の居酒屋。プロローグで見せられる居酒屋内での5人の男女の不穏な振る舞いと世界を襲う崩壊。彼(彼女)らは何を使用としているのか。世界を襲うこの崩壊は何か。崩壊を観測している人物は誰なのか。様々な疑問をプレイヤに抱かせながら、物語は本編へと向かう。
本編はある大学の文芸サークル仲間である5人の男女の会話が中心に描かれる。初めは登場人物の1人である「雨宮」から始まり、飲み会の開始から崩壊までのシーンが、各人物の主観で語られる事になる。
飲み会開始当初は文芸サークルらしく創作活動の話題を中心に会話は進むが、次第に登場人物の抑えられない思いが露になり、場を動かし、想定外の結果を生みつつ、世界は崩壊へと向かう。
1周目では何が起きているのかも分からず、目の前の非現実的な出来事にプレイヤ自身もただただ惑わされるだけだろう。2周目以降、語り手(主観)が変わるごとに情報量も増えていき、朧気ながらこの世界の仕組みが見えてくるはずだ。5人目の語り手に到達する頃には、この世界の成り立ちもある程度推測ができている事だろう。但しその推測が正しいのかはこの物語の結末を見るまで分からない。
本筋のストーリィもさることながら、サークルメンバの雑談も面白い。「欲望の3角形」「哲学的ゾンビ」といった専門用語が出てくる蘊蓄語りもそうだが、主観者が切り替わる事で各人物が話している時の内面描写と第三者の感想が分かり、それぞれの思いのすれ違い感が非常に面白い。ともすれば同じ会話内容の繰り返しになり、だれてしまう懸念もあるシーンだが、上手くプレイヤの興味を継続させる作りになっている。
悲しい真実そして希望・・・
全員の語りが終わるとこの世界の真実が明かされる事になる。ある程度予想できていた事に加えて、衝撃的な事実も語られる事になるだろう。詳細は伏せるが、悲しい真実が突き付けられる中でも、ある種の希望を感じさせてくれる結末となっており読後感は心地よい。
「居酒屋セカイ系ノベルゲーム」とはそういうことなのかと改めて納得。
総評
読みやすい文章と自然にプレイヤに推理を促す情報開示や伏線の妙。衝撃的な内容のプロローグでプレイヤの興味を引き、一度ゲームを開始したら結末まで一気にプレイをしたくなるだろう。
2時間程度とプレイ時間もお手頃のため、「セカイ系」といったワードに抵抗がないならば是非とも一度遊んでみて欲しい。
【フリーゲーム感想】この部屋にいるのは誰
・タイトル:この部屋にいるのは誰
・作者:まんなかマナカ 様
・ジャンル:ノベルゲーム
・プレイ時間:10分~
・お勧め度:★★☆☆☆ 2
「妻」と「夫」の不穏なモノローグで進む物語
きっと、あなたは騙される。
数多くのノベルゲームを世に出している「まんなかマナカ」様制作の本作。上記のキャッチフレーズが気になる短編ノベル。全7章で構成され各章では話者の主観で物語は語られる。
最近の「夫」の行動に異変を感じる「妻」と、精神的に不安定になっている「夫」。物語はこの「妻」と「夫」が順番に独白する形式で進んでいく。
恐らく1回目のプレイではほとんどのプレイヤは真相に辿りつくことなく最終章を迎えるだろう。最終章の2つの選択肢により結末が4種(TRUE END ×1、BAD END ×3)に分岐する。それぞれのBAD END を見ることで作者様がこのゲームに仕掛けたトリックの一端を垣間見る事ができる。
最終章での選択肢はあるが、特に何も考えなくてもTRUE ENDには辿り着ける。主体的に真相を解き明かそうと意気込んていたプレイヤにとっては肩透かしになってしまうかもしれない。
感想(ネタバレあり)
(反転で表示)
このゲームのトリックの根幹はタイトル名にもなっている「この部屋にいるのは誰」だ。話者が「夫」と「妻」としか表記されないため、具体的に主観となっている人物を明確にしていない。プレイヤには各章で語られる「夫」と「妻」は同一人物だと思わせておいて、最終章での急転直下の展開を見せる構成は素晴らしいの一言。
※ただBAD END1で「佐藤」が「圭子」に殺される理由がよく分からなかった。「佐藤」が「香織」の心を繋ぎ止めておけば不倫されることもなかったとか、そんな感じなのだろうか…)
「この部屋にいるのは誰」というタイトルも2つの意味を持っていて面白い。各章でいないはずの人物の幻聴に悩まされる「夫」と、実際に「夫」に語り掛ける「妻」。それぞれの主観に齟齬が発生する中、この部屋にいるのは誰?(妻の幽霊? 夫の精神状態がおかしくなっただけ?)という問いと、そもそものこの部屋で語っている話者は誰?というダブルミーニング。
作者様の思惑としては初めはプレイヤには前者の意味だと認識させておいて、最後に実は後者の意味だった、と気づかせたかったといった所だろうか。
本トリックのアイデアは秀逸かと思うので、もう少しプレイヤに主体的に推理をさせるような作りにしても良かったかも。今のままだとあれよあれよと良く分からない内に真相が提示されてしまった感がある。好みによるかもしれないが、TRUE ENDに到達する条件に多少の障壁があった方が、より新鮮な驚きをプレイヤに与える事ができたかもしれない。
総評
周回プレイを考えても数十分で終わる短編ノベルゲーム。サクッと良質なトリックが仕込まれた物語を楽しみたいプレイヤにはおすすめできる作品だ。
【フリーゲーム感想】探偵のすすめ ~黒雨の中のサンタ編
・タイトル:探偵のすすめ ~黒雨の中のサンタ編
・作者:たんすかい
・ジャンル:ユーモアミステリー系ノベルゲーム
・プレイ時間:30分~
・お勧め度:★★☆☆☆ 2
※本作は作者様のHPから無料ダウンロード可能
高校生になった彼女たちの事件
同人ゲームサークル「たんすかい」様制作の「探偵のすすめ」シリーズ第3弾。前作から時間は大きく進み、高校性になった彼女らの活躍を描いたゲームになる。今まで同様主人公はゲストキャラ。探偵役の朝島美奈子に恋心を抱いている男子高校生という設定。前作までの主人公たちと違って、感情が表に出てしまうタイプ。良い意味で物語の牽引役を務めてくれそうなキャラ造形になっている。
物語は主人公は朝島美奈子に告白(!?)するために電車で移動するシーンから始まる。妄想により感情が昂ぶり、一人で奇声をあげてしまう等、主人公の少々危ない性格が描写される(ゲーム上だからギャグで済まされるが、現実にいたら相当な危険人物…)そして成功を確信しつつ、雨の公園で告白タイムとなるが結果はお察し。
それにしても高校性になった朝島美奈子は少々ぽっちゃりしすぎではなかろうか……。
その後事件を目撃した主人公は、朝島美奈子とともに犯人を見つけるべく捜査を開始する、といったいつも通りの展開に。メインキャラ4人組の内、男子2名は名前だけの登場で、今作では朝島以外では大林紀子が登場するのみ。2作目と比較すると登場人物も少なくなりスケールダウンした印象を受けるが、その分無駄を省いたスリムで分かりやすいストーリィになっている。
推理部分も今作は、作者様のあとがきでも触れられていたように、しっかりと考えて作られている印象。推理のヒントとなる情報の出し方が多少露骨な感じは受けるが、プレイヤ自身が考えて解を導くことができる。ヒントの分かりやすさもあり最後の推理シーンで選択肢に迷う事はよほどないと思うが、今作でも仲間からの信用度パラメータは存在しているため、強制ゲームオーバにはならないように気を付けよう。
今作では「探偵のすすめ」シリーズ恒例の最後の告白シーンは存在しない(冒頭で告白してしまっているので当然か)その代わりに次回作以降の伏線になりそうな不穏なモノローグを残して物語は終了する。とはいっても、このシリーズらしくさわやかな読後感は変わっていない。登場人物が高校生になったこともあり、より青春の空気感が濃く感じられるようになっているため、その手の雰囲気が好きな人にはお勧めだ。
総評
シリーズ3作目ということもあり品質は今までで最高峰。
メインキャラが全員登場しない寂しさはあるが、高校生となった女性陣を見られただけでも満足。可能なら1作目から順にプレイをしてみて欲しいが、ストーリィは各作品で独立しているため、本作品からプレイするのもあり。
ゆるめの短編ミステリノベルを楽しみたい方は試しに遊んでみてもよいのでは。
※同シリーズの感想記事はこちらから
【フリーゲーム感想】探偵のすすめ ~犯人は幽霊?!編
・タイトル:探偵のすすめ ~犯人は幽霊?!編
・作者:たんすかい
・ジャンル:ユーモアミステリー系ノベルゲーム
・プレイ時間:40分~
・お勧め度:★★☆☆☆ 2
前作の登場人物たちがキャンプで直面する事件
同人ゲームサークル「たんすかい」様制作の「探偵のすすめ」シリーズ第2弾。前作の主人公はお役御免で、今作からは新しいキャラ(女の子)が主人公に。主人公は各事件で巻き込まれたゲストキャラの位置づけになるようだ。
舞台は前作から2か月後、中学校の恒例行事であるキャンプ旅行に出発するところから始まる。新登場のキャラもいる事もあり、メインキャラたちの掛け合いと新キャラの紹介を含めたドタバタコメディが続き、夜になってようやく事件が発生、といった流れ。前作と比較して登場キャラも大幅に増える事で画面の華やかさは格段に増した。
前作は選択肢はあれど主人公の行動はほぼ同じだったが、今作は選択肢により主人公の行動が明確に分岐するケースがある。選択によって得られる情報も異なるため、それぞれのルートを試してみるのも良いだろう。最終的には同じ道につながるのだが、ゲーム性を向上させようとする取り組みが見て取れる。
ストーリィ自体は質、量ともに前作から比較してレベルアップしている。ただこれは前作にも言えたことだが、ほぼ会話文ベースの文章で進行するため、どうしても状況描写に難が生じてしまう。登場人物が増えたこともあり、全体的に描写が取っ散らかっている印象がぬぐえない。
肝心の推理部分は前作同様あっさりめ。探偵役の朝島美奈子の推理もかなり強引だが、犯人が自白してくれるので結果的に良し。プレイヤ自身が推理を頑張るというよりは、仲間の信用を落とさないように選択肢に気を付ける方が大事、というスタイルは前作から変わらず(といっても普通に選択肢を選んでいけば、ゲームオーバになるほど信用は下がらないはずだ)
多少のネタバレになるが、復讐を果たすために無実の第三者に危害を加えるという真犯人の思考は少々理解しがたい。中学生を被害者にするというゲーム上の目的を達成するためにかなり強引に話を作っている感がある。また本事件のトリックがばれる事ないと自信をもっていたみたいだが、被害者の意識が戻って事情聴収ができるようになれば、必然的に疑いの目が向けられるのでは……? ちょっとちぐはぐな感じを受けてしまった。
まあこのゲームは推理を楽しむというよりは、主人公とその友人たちとのやりとりを眺めて楽しむものなのだ。割り切って楽しもう。
総評
前作同様、推理ゲームというよりは青春ノベルゲームとして楽しむべき。前作をプレイしてみて雰囲気や登場キャラクタに魅力を感じたら、是非ともその続編であるこの作品もプレイしてみよう。
※同シリーズの感想記事はこちらから