はるげと|果てなき流浪はゲームと共に

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長い人生、ゲームが無ければ生きられない。フリーゲームの感想メイン

【フリーゲーム感想】魔女の塔 ~The Witch's Tower

ゲームのタイトル画面

 

・タイトル:魔女の塔 ~The Witch's Tower

・作者:38

・ジャンル:脱出ADV

・プレイ時間:1時間

 

・お勧め度:★★★★☆  4

 

www.freem.ne.jp

 

謎を解いて塔から脱出せよ

「この『ゲーム』は、『最後』までプレイしてください。」というフレーズが気になる本作。主人公はサーディと呼ばれる少女。背景が語られないまま塔の1階で目覚める所からゲームは開始される。

同階には3人のキャラがいて、その中から1名パートナを選択し、塔から脱出するための「鍵」を入手するため上階へと探索していくことになる。パートナとはメニュー画面から会話をすることができるため、色々な場面で話しかけてみると面白いだろう。

リーフ君と会話をしている場面の画像

仲間キャラの1人リーフ君。人と話すのが苦手だがトリは大好き。

上階に進むためには各種ギミックを解いていく必要がある。謎解き自体は下層は易しめ、上層になるにつれて段々と難易度が増していく設計。解決のためにはフロア間の移動を強いられるケースもあるので、多少面倒と感じるプレイヤもいるかもしれない。

個人的には難易度設定は概ね満足。最上階付近では多少歯応えがある謎もあるが、理不尽さを感じる事もなく心地よく謎解きを進めていける。

魔女メルとの会話シーンの画像

塔の所有者である魔女メル。鍵をくれるかと思いきや最上階にあると告げるだけ

謎解きのヒントの画像

適度な難易度の謎解きが各階層で用意されている

 様々な謎を解きつつ、塔の再上階である8階に到達し塔の鍵を入手。ここまでは良くある脱出ゲームの域を出ない。これでエンディングを迎えるかと思いきや、物語は予期せぬ方向へと転回する。言うなればここからがこのゲームの本番といってもよいだろう。

是非ともプレイヤの皆様には事前情報なし体験してほしいので詳細は伏せる。ネタバレ上等、もしくはすでにプレイ済みの方のみ読み進めて欲しい。

 

設定が作りこまれたメタゲーム

塔の鍵を入手した後ゲームの雰囲気は一変する。魔女メルは「サーディ」ではなく「プレイヤ」自身に直接語り掛けを行ってくる。そして唐突なゲーム強制終了。そう、このゲームの本質は現実世界とリンクした一種のメタゲームだったのだ

プレイヤに語りかける魔女メルの画像

プレイヤに語りかけてくる魔女メル。ここからゲームは急展開をみせる。

魔女メルによる妨害を潜り抜けながら、何とか塔からの脱出(=ゲームクリア)を目指していく、その主体は「プレイヤ」である。ゲーム世界の改変、強制終了という裏技を使用してくるメルに対し、プレイヤはゲーム自体のデータを操作することで対抗する。ゲームマスタ的な立ち位置であるメルもゲーム世界の住人であるため、外部からのデータの変更には対処不能。ある種のゲームに対する禁じ手をプレイヤに行わせる発想がとても面白い。

浸食されたゲーム画面の画像

メルにより浸食されるゲーム画面。通常の進行は不可能に。


話が進むにつれ魔女メルの目的も明らかに。メルが開発した「現実削除兵器」によって塔以外の空間が消え去った世界とその生き残り3名(+オウム1匹)。このままでは滅ぶしかない彼女らの世界を救うには、別世界と接続する奇跡に賭けるしかない。

その奇跡を実現するために、彼女らの世界の情報量を削減し、限りなく「現実値」を低くする(「現実値」が低いほど奇跡が起きやすい、という設定)。そして「現実値」の高い世界(=我々の現実世界)から観測してもらう。そのための媒体としてのゲーム、といった趣旨が語られる。

ゲームとしてのお約束の設定(キャラは特定の内容しか話さない、不要な情報は省略される等)に対し理由付けを行っている点が非常にユニーク。

 

最終的にプレイヤがこの世界のデコード(=現実化)を実施することになる。このデコード作業もゲームと現実世界が相互に絡み合う非常に凝った作りになっていて面白い。WOLF RPG Editorの特性を上手く生かしたギミックだろう。

現実世界とゲーム世界をリンクさせたメタゲームは数多くあれど、その設定をここまでシステム的に昇華させたのは中々類を見ないレベル。

彼女らの旅がどのような結末を迎えたかは、ゲーム上では明確には語られない。ただ残したメッセージは受け取る事ができる。そう、この奇跡を成し遂げた魔女メルには強い意志(Volition)が残っているはずだ。

総評

単なる脱出ADVと判じるなかれ。まさに、「この『ゲーム』は、『最後』までプレイしてください。」なのだ。ボリュームも1時間程度とお手軽サイズのため、通常にないゲーム体験を求めるならば、是非とも一度プレイしてみて欲しい一品だ。